ほめるだけでいいのか
- 2019年8月 -
この記事は2019年8月にさくら新聞に掲載されたものです。
日本の現代社会が抱える問題の一つは、親による幼児・児童虐待である。厚生労働省の発表によると、2017年度の全国児童相談所における児童虐待相談対応件数は13万3778件。前年度比では1万1203件増で過去最多。しかし、この公表の中で気になることは、加害者の多くが実父母であり、特に実の母親が6割を占めていることである。それは常識的イメージを裏切るが、結局の問題が親にあることを物語る。今回本欄に書かせて頂きたいことは、虐待とは無縁の満腔の愛と加護を子どもに捧げて子育てにいそしむ親御さんたちへの一言である。
現代の子育ては、大きく言って二つの「子育て」の仕方への反動と米国流の文化的影響を受けている。反動の一つは、いわゆる伝統的躾けである。それは、あれをしてはいけない・これをしてはいけない式の子育てであり、ネガティブなイメージがあり、子どもを委縮させると言われて来た。もう一つは、上述した幼児・児童虐待への反動である。厳しい躾けが体罰となり、折檻となり、更には、虐待となるイメージへの恐れである。更に現代の子育ての背後には、米国流の積極思考の影響がある。教育や躾けで言うなら、減点方式より加点方式であり、叱る・怒るよりほめる姿勢である。このような傾向の中、教育評論家尾木直樹氏の「叱らない子育て論」を始め、最近の「子育て」関係の書籍は多く「怒らない」「叱らない」子育てを強調するものが圧倒的である。私も牧師として子育ての相談を受けたり、セミナーでお話をさせて頂くこともあるので、それらの本を読み、多くのことを教えて頂いている。
しかし、同時に、そのような積極面一本の強調に問題ありと警鐘を鳴らす人々も少なくない。いわゆる積極思考で、親が叱らない、怒らない、何でもほめる、すべての言い分を受け入れる、等々で育った子どもは、外の世界に出て行く年令になったとき、今までの状況とのギャップを受けとめられずに、自信をなくしたり、鬱になったり、逆にキレたりする率が高いとも聞く。「ソニー」の創業者で、財団法人幼児開発協会を設立、自ら数々の幼児教育関係の本を著しておられる井深大氏は、自著「0才からの母親作戦」の中で、外国と比べて日本人の子どもたちの「公徳性」の無さが、幼児期の親の躾けの欠如にあると指摘する。更に、同著の中で、子どもは3才になるまでに、人間の「知的な頭脳活動」と共に、「人間として生きる上での基本的ルールとマナー」を植え付けられるべきであり、それは親の重要な責任であると主張する。
「ほめる」と言う積極姿勢に関しても井深氏は言う。「子どものやったことを何でも・・・ほめさえすれば子どもが伸びると思っているようですが、子どもは鋭い直観力で、それが母親の『お世辞』であることを見抜いてしまっているのです。こうしたほめ言葉は、子どもの頭に褒められることは当たり前のように考える配線をつくり、ほめられなければ何もしない子どもをつくる恐れがあります」(同著)と。スズキ・メソッドで有名な音楽家鈴木慎一氏は、生徒の演奏を聞いて「うまい」とか、「へた」と言うような評価はせず、「よく弾いた。よく弾いた」と生徒と一緒に喜んだと言う。
「叱る」という子育ての消極面に関しても、感情的に「怒る」こととは区別しなければならない。むしろ、愛しているからこそ「叱る」のだということが、子どもに分かるように、感じられるようにそれをするべきである。
私たちは、親として子どもに幼いときから、人生には、YESと言う積極面とNOという消極面の両方があることを教えなければならない。聖書も言う。「子をその行くべき道に従って教えよ、そうすれば年老いても、それを離れることがない」( 箴言 22章 6節)と。
「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。
投稿者プロフィール

- 元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。
最新の投稿
さくら新聞2025年2月14日恐れおののいてはならない
- 2020年3月掲載記事 -
さくら新聞2025年2月7日内側の改革から始めたい
- 2020年2月掲載記事 -
さくら新聞2025年1月31日新しさを内に求めて
- 2020年1月掲載記事 -
さくら新聞2025年1月24日中村哲氏偲んで
- 19年12月掲載記事 -



