AI(人口知能)の時代 その2
- 2018年10月掲載記事 -

この記事は2018年10月にさくら新聞に掲載されたものです。

今回は、先月号で触れた、最近何かと話題になる「AI問題」について続けたい。NHKでも一か月ほど前に「AI:天使か悪魔か」と題して取り上げていたが、小生の前回投稿文中の多くの引用が、日本経済新聞社出版部による「AI 2045」に負っていることを一言付け加えておきたい。そんな中、つい最近も、「マネーワールド第2集:仕事がなくなる‼」と言う特集が、またまたNHKから放映された。産業革命以来250年続いた資本主義の基本的形態が、今AIの進出と共に変化しようとしていると言うのである。そのような新たな現実にどのように対応するべきかが、番組のメイン・テーマであった。僅か十数年前と記憶するが、私たち一般人の前に頻繁に登場し始めた「(経済)格差」と言う言葉は、今や社会で「市民権」を得るどころか、世界の中心問題としての座を獲得してしまった。その経済格差問題に、AIの登場と台頭が更に拍車を掛けると言う。そして、その問題の中核が「分配」だと言われる。かつて拙宅に、ある大学の経済学教授をお泊めしたことがあった。

その晩、交わした会話の中で、ふとおっしゃったことが、「先生、経済学は科学として、ある程度、論理的・客観的に解明、予測ができます。でも、これが『分配』の段階になると、必ずしもそうはいかないのです」と。当時、彼は宗教者・信仰者ではなかったが、その理由を「分配」と言う経済のプロセスが、主観的な「心」の問題、即ち人間の道徳・倫理性の問題と密接に関係してくるからであると明らかに示唆しておられた。先回も触れたが、今後、AIの発展に伴い、益々この人間の道徳・倫理的責任が問われる時代が来ること、否むしろ来なければならないことを益々確信する。

上述のNHKの番組でも扱われていたが、AIの世界参入における課題の一つは、その「戦闘利用」である。「人間の生死について、AIに意思決定を委ねるべきではない」「標的の選定や攻撃などの判断は、必ず人間が行うよう義務づけるべきである」など、ここでもその使用に関しては、最終的に人間の道義的責任の範囲内におくべきであるという意見が強い。しかし、他方、「AIを戦闘に利用することで、人間の倫理的、心理的負担を軽減することができる」と言う声もある。後者の立場は、かつて国家の命令下、広島に原爆を投下した米兵が、その後、個人として経験した苦悩の人生を思い起させる。AIは、確かにそのような悲劇からの逃避を可能にしてくれるかもしれない。しかし、だからと言って、たといそれがどんなに豊富なデータに基づいた高度なAI機能による超合理的な算出結果であったとしても、人間の心の「痛み」を軽くするために、判断と責任のすべてをAIに嫁して良いのだろうか? 極端なAI偏重主義は、非人間的で、機械的判断と決断による暴走の危険と破壊に世界を導く可能性があるのではないか。

聖書(創世記)に、神様は「人間を『神のかたち』に、神に似る者として造られた」とある。興味深いことに、聖書は、その一方で、徹底して「神は霊であって形はない。だから神を形あるものとして偶像を刻んではならない」と主張する。それでは、ここで言う「神のかたち」「神に似る者」とは何か? それは、神の「本質」、即ち「人格」を意味した。換言するなら、神様は人間を、神様のような「人格」を持つ者としてお造りになった。即ち、動物のように生まれつきの本能で動くのでなく、ロボットのように組み込まれたプログラムに従って動くのでもなく、一つ一つ目の前の物事に、合理的要素を鑑みつつ、多くはそれに基づき、しかし、ある時は、それに反してでも、人格を持つ者の責任として、愛を頂点とした道徳的、倫理的判断を下すものとして造られたというのである。この危機的時代に、AIと言う似て非なるものの登場にも、人間が益々人間として成長するように祈りたい。

「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。

さくら新聞 西郷牧師の世相を斬る
さくら新聞で連載された「西郷牧師の世相を斬る」の記事。コロナ禍における休刊までの35回にわたって連載されました。

投稿者プロフィール

西郷純一牧師
西郷純一牧師
元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。