人間力を持つ教養人に
- 2019年1月掲載記事 -
この記事は2019年1月にさくら新聞に掲載されたものです。
2019年が幕開けた。今年も対内的には天皇の譲位・即位を中心に、対外的には米・中国を中心に揺れる世界情勢にどのように竿さしていくか、山積みの課題と挑戦の中でのスタートである。そのような国内外の政治・経済情勢の中で、その基底にある文明・文化そのものが大きく変わりつつある。つい先日、NHKスペシャルは、ユヴァル・ノア・ハラリ氏のベストセラー著書「サピエンス全史」「ホモ・デュオス」を取り上げた。前者は、両著の序論としてなぜホモ・サピエンスが現在のような進化・発展を遂げたかの仮説を三つの革命的段階をもって説明。後者は、それら3革命の最後「科学革命」の延長としてのAIの発展を中心に、私たちは間もなく「人が神になる(ホモ・デュオス)」時代に突入すると提唱。それは、少数の「超エリート集団」と多数の「無用者階級」という「超格差」社会であると言う。
最近、中国の一研究者によって遺伝子組み換えで双子の誕生?に成功。その発表に世界は騒然とした。しかし、本欄でも以前指摘したが、今や科学の進歩は文字通り日進月歩。宗教・倫理問題を除外視するなら、ごく近い将来、生まれて来る子どもの性別は勿論、性格、才能、容貌まですべて自由にする能力を人間が手にするであろう。言い換えるなら、それは、私たち人間が「神の領域」に入ることである。しかし、果たして私たちは「神になれる」のだろうか?
確かに技術・能力的には、人類はこれからも限りなく神に近づくであろう(それでも無限界を扱う神との差は想像と認識を遥かに越えている)。それにも増して、ハラリ氏自身も言っているようにそもそも「意志決定」には「知能」と「意識(喜怒哀楽)」の両方が必要であるが、AIには本当の意味での「生(なま)」の「喜怒哀楽」は無い。人はこれを「人格性」と呼ぶ。神であるとは、知性と人格性の両面で完璧でなければならない。これなくして人が神の位置に立つことはできない。私たち人類に今求められていることは、神になることではない。神の子どもとして、神に似る者へと成長することである。即ち、私たちのなすべきことは「御心が成りますように」と神から言われるがまま、ただ「受け身」でいることではなく、むしろ、AIを象徴・代表として、技術面・能力面で成長するだけでなく、殊に「人格面」で神に似る者として成長することである。
ハラリ氏の著書への読後感想として、金融界を代表するみずほの佐藤康博氏は、新時代に直面する私たちに今必要なことは、専門分野の追求にまさって「リベラル・アーツ、自己をもっと突き詰めて考える力、即ち人間力を鍛えること」であると言う。筆者は最近折しも藤原正彦氏の新刊「国家と教養」を読んだ。同氏はこの書の中で前述の「人間力」の鍛錬と言う概念を「教養」の育成に置き換え、歴史の教訓から、民主主義制度に無為、安閑と信頼する危険を指摘。「ヒットラーは、国民の圧倒的支持を集めた民主主義の申し子である」(同書)と警告する。彼は更に言う。「民主主義においては、独裁者や王様ではなく、一人一人の国民が主役である。本来一人一人が立派な市民でなければ、民主主義は成り立たないはずである。国民の教養はかつてに比べより一層必要になっているはずなのに教養主義が衰微している」と。「これからの教養は、書斎型の知識ではなく、現実対応型・・・生を吹き込まれた知識、情緒や形と一体となった知識」を身に着けることと勧める。これもまた佐藤氏(上述)の言うリベラル・アーツの学びに通じる。猛スピードで未知の世界に突入していく時代に生きる者として、私たちは今こそ自分を見つめ、自分を知り、自分を磨き、真の民主主義国を支える人間力を持つ教養人となりたい。
「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。
投稿者プロフィール

- 元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。
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