いま最も必要なものは「勇気」
- 2018年3月掲載記事 -
この記事は2018年3月にさくら新聞に掲載されたものです。
第23回冬季オリンピックが、数々の感動的なエピソードを残して成功裡に幕を閉じた。開催国韓国の皆様に隣国人として、心からの喜びと賛辞を贈りたい。いつものように限られたメディアによる中継や報道を通してではあったが、今回のオリンピックで最も印象に残ったことは、競技の様子を実際の会場で、またテレビやインターネットで観戦した沢山の方々の口から、「勇気をもらった」「勇気が湧いて来た」と言う言葉を、いつになく多く聞いたことであった。女子500メートル・スピード・スケートで日本人女子初の金メダルを獲得した小平奈緒選手の大会前からのメッセージも「勇気を届ける」であり、自身の競技前日、羽生結弦選手の金メダル獲得に「勇気を頂いた」と自らの気持ちを伝えていた。なぜ今、こんなにも「勇気」と言う言葉が、人々の心に、口に上り、また響くのだろうか!?
それは、今の時代が、人々が、これまでにまさって、「世界とそこに住む私が、どうなっていくのだろうか?」という無限の不安と恐れの中に生きているからであり、そのような時代に生きる者たちにとって、最も必要なものは「勇気」であるからである。かつて、英国の宰相ウィンストン・チャーチルは、招かれた大学の卒業式の祝辞でこのように語った。「もしあなたがこれから歩む人生で、財産を失ったら、それは小さなものを失ったのである。もしあなたが名誉を失ったら、それは大きなものを失ったのである。しかし、もしあなたが勇気を失ったら、あなたはすべてを失ったのである」と。
勇気とは何か? 真っ逆さまと言うか、ほぼ垂直に落ちて来るようなジェット・コースターに、キャーと言うような悲鳴を上げずに、何事もないかのように平然と乗れることなのか? 或いは、50メートルもあるような高層ビルや、高い橋の上から一本のゴム紐を頼りに飛び降りるバンジー・ジャンプができることなのか? 勿論、それらも「勇気」ある人々と数えられるべきであろう。しかし、それらは、皆が持っていない。恐らく皆は持つことはできない種類の勇気である。しかし、ここに、私たちがみな、人間として、個人のために、世界のために、人生で持たなければならない勇気がある。オリンピックの競技者たちが私たちを励まし、教えてくれた勇気とはこの勇気である。上述の小平奈緒選手は、「私にとって勇気とは、覚悟を決めること」と言った。それは、また私たちが人生で直面する、苦難に立ち向かう勇気、悪に立ち向かう勇気、危険に立ち向かう勇気、不可能に立ち向かう勇気、失敗と失望、そして嘲笑を恐れない勇気、更には、忍耐して待つ勇気であろう。
今テレビでは明治維新の立役者の一人、西郷隆盛の生涯を描く番組「セゴドン」が人々の関心を集めているが、維新の傑物たちが共通してもっていた品特的特質の一つは、この「勇気」であった。今、時代は大きく変わろうとしている。国外に目を向けるなら、その勢力構図は大きく変わり、国内も「年号」と共にその先行きに多くの変化と改革が求められる時である。そんな今、明治開国の時にも勝る勇気が必要とされているのではないだろうか? 現代を生きる最先端の知識と技術、如才なく社会と人生を生き抜く知恵も必要であろう。しかし、それらにも増して今必要なのは、時代と次代を切り開く個人としての、また社会人としての「勇気」である。イエス・キリストの弟子の多くは、「無学のただ人」と評される土着の漁師であった。そのような彼らと新しい教えをもって世界を席巻せんとする宣教に乗り出そうとするとき、イエスは言った。「あなたがたは、世にあっては艱難がある。しかし、勇気を出しなさい。私は既に世に勝っている」と。
「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。
投稿者プロフィール

- 元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。
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