感謝祭を迎えて思うこと
- 2017年11月掲載記事 -

この記事は2017年11月にさくら新聞に掲載されたものです。
「秋の日はつるべ落とし」と言われるが、「夏時間」の終了が秋の夕暮れに拍車をかける。アッと言う間に今年も後一ヶ月余を残すだけ。特にアメリカでは、10月のハローウィーン、11月の感謝祭、12月のクリスマスと、年末にむかって行事が目白押しとなる。それらの中でも「感謝祭」は、アメリカ人にとって、宗教的・歴史的に、その建国の精神にかかわる特別な意味をもつ。しかし、アメリカに住む外人として、昨今この感謝祭が、大半の米人にとって、そのような建国の出来事とはほぼ無関係に、家族・親族・友人・知人が食事を介しての、もうひとつの「リユニオン」と「フットボール」を楽しむ日であり、更にはクリスマス・セールの始まりを告げるブラック・フライデー「イブ」に過ぎないとしか見えない。35年前、小生が5年間の留学予定で初めて米国の地を踏んだ頃、多民族・多人種の寄せ集めと言えるアメリカ国民が、国旗の前で胸に手を当てて国歌を歌い、国家への忠誠を誓い、すべての違いを乗り越えて一つとなっている姿に羨ましくも、心打たれたことを今でも鮮明に記憶する。
しかし、今はどうだろうか。プロ・フットボール選手たちがゲーム前の国歌斉唱に抵抗する姿に、その背後にある差別的社会問題ゆえの抗議行動とは理解しつつも、一抹の寂しさを覚える。アメリカは、なぜこのようになってしまったのか?そのようなことは、アメリカに限ったことでなく、どこの国にでも、どこの団体・組織にも、どこの夫婦・家庭にも起こることであろう。かてて加えて一国の精神的変遷とその原因を論じることなど容易にできることではない。しかし、あえてアメリカに住む一日本人牧師の所感を述べさせて頂くなら、「アメリカ、ファースト」と言いつつも、アメリカ人自身が、今、「そのアメリカとは何か」、アメリカ人としてのIDとヴィジョンを失いつつあることに基因しているように思える。アメリカが、そもそもどういう国で、どのような理念をもって始められた国であるかを忘れ、そんな過去の精神論に頓着せず、「今さえ良ければ・・・」「背に腹は代えられない」式な風潮がアメリカ社会を支配しつつあることに問題があると思う。
米国は「神のもとに、すべての人は平等であり、自由のもとに、いかなる人も成功し、幸せになるチャンスが与えられる国」と言う理想を掲げて集まって来た「移民の国」ではなかったのか。アメリカがその建国の時代から精神的基盤として仰いできた聖書も、外国からの移民・寄留者については、イスラエルの人たちに明確に命じている。即ち、「在留異国人を苦しめてはならない。しいたげてはならない。あなたがたも、かつてはエジプトの国で、在留異国人であったからである」(聖書:出エジプト22章21節)と。聖書は更に言う。「幻(ヴィジョン、理念的目標)の無い民は滅びる」と。
ある感謝祭に、神学校時代の友人の家に招かれた。彼の先祖は、メイフラワー号で英国から渡来し、初年の極寒と病と食糧不足の試練を乗り越えて生き残った50余名の一人であった。食事の時間になった。彼は一家の長として席から立ち上がり、僅か数粒のトウモロコシの実を載せた細長い木彫りの皿を取り、そこにいた家族、親族、友人たちに、先祖たちが経験した最初の感謝祭の様子と意味を語った。彼らが外国からの移住者であり、信仰の自由を求めてきたこと、先住民たちの好意に助けられたこと、すべては神様の恵みと祝福であったこと等。私はそこにTrue American Spiritを感じた。東日本大震災を通しても「語り部」の大切さが言われる。歴史は語り伝えられ続けなければならない。今年も、すべての人にとって「感謝祭」がそのような日であることを祈る。
「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。
投稿者プロフィール

- 元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。
最新の投稿
さくら新聞2025年2月14日恐れおののいてはならない
- 2020年3月掲載記事 -
さくら新聞2025年2月7日内側の改革から始めたい
- 2020年2月掲載記事 -
さくら新聞2025年1月31日新しさを内に求めて
- 2020年1月掲載記事 -
さくら新聞2025年1月24日中村哲氏偲んで
- 19年12月掲載記事 -


