大震災で学んだ人生の永遠的価値
- 2017年7月掲載 -
この記事は2017年7月にさくら新聞に掲載されたものです。
今年も5月30日から約1カ月、仕事の一環として訪日。北海道から九州までの全国旅行をした。その中で、近年、大地震を経験した熊本と福島の地を訪れ、その復興状況を垣間見る機会を得た。熊本では、「5時間の救出劇」としてTVの特集にもなった若いご婦人、また復興支援団体でスタッフとして働くご夫妻から様々なお話を伺うこともできた。福島では、震災当時、第一原発からわずか5キロメートルの所にあった教会にも伺った。
同教会は、そのメンバーの多くが東電関係の仕事に携わっていた。その中のお一人が、車で奥様と共に居住困難区域から解除された地域をご案内くださった。第一印象は「人気(ひとけ)の無い街!」。「復興はまだまだ長い道のり」との感を禁じえなかった。同地でお会いした方々からは「復興格差」の問題も指摘された。震災から6年。確かに復興して来た。しかし、そこには、なお余りにも大きく、より複雑な問題が横たわっている現実をも見た。これらの問題と取り組むためには初期同様の、否それ以上の努力の継続が必要である。折しも、その数日後、6月30日、東電の旧経営陣の刑事責任を問う初公判が開かれた。言うまでもなく起訴された3人は「無罪」を主張。その正否は司法の手に委ねることであるが、民事問題をも含めて東電、また政府、地方自治体が、心情的にも、社会的にも、経済的にも引き続き責任と義務を回避したり、有耶無耶にすることが無いようにと祈る。
しかし、翻ってそのように言う私たち自身はどうなのだろうかと自省した。あの大震災で被災地の方々が経験された筆舌に尽くせない苦難と言う代価を通して、あの時、私たち日本全国民が「人生で一番大切なことは何か?」をもう一度真剣に考え、被災地復興支援を胸に、それぞれが再出発を誓ったことを思い出す。 震災の復興支援チャリティー・ソングとして人々に親しまれてきた「花は咲く」と言う歌がある。
その最後の部分は「花は 花は 花は咲く、いつか生まれる君に。花は 花は 花が咲く、私は何を残しただろう」と謳う。あの大震災は、被災地の方々から多くのものを奪った。今まで目の前にあった大切なものが、アッと言う間に消え去ったのである。粒粒辛苦してこれまで積み上げて来た家が、車が、畑が、故郷が、そして、家族や友人さえも。そんな中でこの歌は問いかけた。「いつか生まれて来る君に、私は何を残すのだろうか? 地震によっても、津波によっても、放射能によっても、どんなものによっても奪われることのない何かを、私は人生に残すのだろうか?」と。あれから6年。
この点で私たちは、何か変わったのだろうか?多くの人々は、子孫に少しでも「財産」を残そうとする。しかし、米国の鉄鋼王として巨万の富を築いたカーネギーは、「子孫に財産を残すほど愚かなことはない」と言って全財産を公共・慈善団体に捧げてこの世を去った。「知的財産」が注目される現代、お金を残さ(せ)ずとも、子供に、何としても「教育」を残そうとする親たちは多い。勿論、私たちに広い視野と深い理解、強い確信を与える「教育」の重要さを強調し過ぎることはない。教育は必要であり、有用である。しかし、それだけでは十分ではない。だから教育があっても人は必ずしも幸せにはなれない。そもそも社会を、世界を狂わしている人々は、教育の無い人々より、むしろ高い教育を受けている人々である。「いつか生まれる君に、私は何を残すだろう?」。福島、熊本で起こった大震災を忘れてはならない。それは、いつまでも被災地支援の必要を覚えることであると共に、私たちがあの国と個人の危機に聞いた人生の永遠的価値への招きと挑戦の声を忘れないことである。
「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。
投稿者プロフィール

- 元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。
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