信頼の大切さ
- 2017年5月掲載記事 -

この記事は2017年5月にさくら新聞に掲載されたものです。

少し前のことになったが、森友学園問題、高官の失言問題、更には、政務次官を辞職に追い込んだ女性問題に至るまで、いつもの事ながら政府関係者の不透明・不詳事が相次いでいる。お隣りの韓国に目を向けても、朴前大統領の現職として史上初の罷免劇は、果たして今回の大統領選で幕を閉じることができるのだろうか、世界中の人々が見守っている。この事件で韓国社会が現した激しい「怒り」の反応は、国民の政治家への「信頼」が裏切られたことに対するものであったと言える。

現代社会には、山積する様々な問題がある。しかし、その中で、最も深刻なもののひとつは「信頼の喪失」であると思う。嘗て、孔子が、弟子の子貢に「国を治めるために大切なことは何か」と尋ねられたとき、「食料と軍備と信頼である」と答えた。しかし、子貢はそこで満足せず、執拗にも「その三つの中で一番大切なものは何ですか」と更に質問を進めた。それに対する孔子の最終的答えがあの有名な言葉、「民、信なくば立たず」であった。たとい食料があっても、軍備が揃っていても、もし民と民の間に、また民と国を治める者たちの間に「信頼」がないなら、国は国として、成立も、発展も、繁栄もしない、と孔子は言うのである。もう10数年前に読んだ本であるが、経済学者フランシス・フクヤマは、その著書(邦題)「信なくば立たず」(原題“TRUST”)の中で、国の経済的発展の鍵として、当該社会における「信頼」関係の重要性を指摘する。会社や団体の組織運営において、信頼関係のあるなしが、その効率・不効率に大きな影響を与える。「信頼」度の低い国、社会、団体が、それをカバーするためにどのくらい不必要で、無駄な神経、エネルギー、時間、出費をしなければならないかは計り知れないと言う。

私たちにとって「信頼」関係の重要さは、政治・経済界だけの問題ではない。夫婦関係、親子関係、友人関係、等々、生活と人生すべてに関わることである。そもそも、「人」と言う文字を見るとき、一本の「棒」がもう一本の「棒」に支えられている絵がそこにある。また「人間」と言う言葉も、人間の本質が「人と人との間」の関係にあることを示唆していると言える。聖書も、また、「人がひとりでいるのはよくない」(創世記2章18節)と、人間は一人で生きるように造られていないことを主張する(この言葉は、ある人が考えるように、決して単なる結婚の勧めではない。もっと人間の実存的意味合いに触れた言葉である。現にイエス・キリストは独身者として地上を過ごされた)。そのような複数の人間関係の基礎は「信頼」である。どのくらいお互いが「信頼」しあえるかが、人間の幸せ度を決めると言って過言ではない。妻が夫を、夫が妻を、親が子供を、子供が親を、先生が生徒を、生徒が先生を、雇用人が雇用者を、雇用者が雇用人を信じあえる世界こそが、理想の世界である。聖書が、「愛はすべてを信じる」と言うように、愛とは信頼することである。しかし、残念なことは、冒頭に挙げたように、人間の社会ではその信頼を裏切られることがしばしばである。そんな現実の中で、人の裏切りに傷つけられ、痛み苦しみながらも、なお真の幸せに向かって、諦めずに人を信頼して生きて行く原動力はどこから来るのか?! それぞれの宗教、思想、文化がある中で、キリスト教の牧師として感じることは、幼子が無条件に母親の愛の胸に「信頼」を感じ、また見出すように、私たちの永遠の父、また母として、私たちの信頼を決して裏切ることのない創造者なる神の愛の胸に信頼する心と体験を持つことから始まるのではないかと言うことである。

「西郷牧師、世相を斬る!」は、米国ワシントンDC、及びテキサス州ヒューストンに在住する日系人のためのコミュニティ・ペーパー「さくら新聞」に、2017年5月から2020年3月まで、毎月1回「同題」で連載されたものです。当初5回の連載予定で原稿依頼を受けましたが、その後、数度の延長を経て35回目になったところで、折しも世界的蔓延の始まったコロナ禍中、「さくら新聞」が暫時無期限の休刊となり、その後、西郷牧師も本帰国となり、結果として連載ストップとなりました。このたび、周辺知人の希望・提案もあり、西郷牧師の社会への問いかけ「エッセイ」として、本ホーム・ページに週1回のペースで「再連載」することになりました。

さくら新聞 西郷牧師の世相を斬る
さくら新聞で連載された「西郷牧師の世相を斬る」の記事。コロナ禍における休刊までの35回にわたって連載されました。

投稿者プロフィール

西郷純一牧師
西郷純一牧師
元ワシントン・インターナショナル日本語教会牧師。ジャパニーズ・クリスチャン・センター・オブ・ワシントン責任者。日本で聖宣神学院卒業後、日本宣教会・久我山宣教会副牧師、1980年ビリーグラハム東京大会事務局主事、1982年日本伝道会議事務局主事を経て渡米。アズベリー大学(聖書学専攻、同言語学副専攻)卒業後、アズベリー神学校牧会神学修士、プリンストン神学校旧約神学修士を取得、ドルー大学旧約学PhD課程コース・ワーク終了。米国で、プリンストン日本語教会、ニューヨーク日本語教会、および現教会を開設、現在に至る。